大学院生のための指導教員選びのヒント


理系分野を専攻している大学院進学希望学生にとって、大学院出願前や複数大学院に合格後の研究室見学や希望指導教員への訪問は、自分の今後の研究生活を有意義なものにするために非常に重要です。

また、将来大学や研究機関における教員や研究者になることを志望している学生にとって、国際的水準で質の高い研究成果を出せる指導が可能な教員を見つけることは、非常に重要です。これは、博士課程での研究成果が研究者キャリアのスタートにおける重大な評価要素であるためです。

本記事では、どのように上記の判断を行うための情報を収集するか、また収集した情報からどのように判断するかを、機械工学系の例を用いながら紹介したいと思います。これらは、新型コロナウイルスの影響で、ほぼ全ての国内外大学における研究室見学や指導教員候補者への訪問が禁止されている現在の状況でも役立つと考えられます。

有用な指標

まず、現代において、優れた研究成果の指標として、国際的に認められた学術雑誌(ジャーナル)における掲載論文の数(論文数)、それらの論文が他の論文から引用された回数(被引用数)及びh-Indexと呼ばれる3つの指標が一般的に用いられます。もちろん、これらの指標は単なる数字であって、研究者はこれを目指して研究活動を実施しているわけではありません。ただし、僕の経験上、優れた研究成果を出している研究者の全てはこれらの指標も非常に高い水準にあります(ただし逆は必ずしも成り立たない→後述)。

次に現代の研究者として重要なのが、研究予算の獲得状況です。ただし、これに関しては、優れた成果を出している研究者は、それ相応の予算を獲得していることが多いので、そこまで配慮する必要はありません。(今回は述べない)

最後に重要な項目は、国内外における共同研究者の存在です。(今回は述べない)

以下では、将来の指導教員を決定する上で重要な、上記項目のうち、論文数、 被引用数及びh-Indexの調べ方及びその利用方法について具体的に説明します。

論文数、被引用数、h-Indexの収集方法

以下の2通りの論文数、被引用数、h-Indexの収集方法を説明します。一般的にこれらの指標は、当該研究分野における優れた学術雑誌に掲載された論文数、被引用数、h-Indexでなければ意味がありません。優れた学術雑誌では、研究者が投稿した論文に対して、当該分野の著名な複数の研究者の査読が実施されます。その後、それに基づく修正や却下の判断が下され、却下されなくても全ての修正事項に対応してから掲載決定が決まるため、基本的に、学術的に不完全であったり、新規性のない論文は掲載されることはありません。従って、一言で論文数、被引用数、h-Indexと言っても、どの学術雑誌に掲載されている論文を含むかによって、指標の質が変わってくることに注意してください。

・Google Scholar(グーグル・スカラー)

最も簡単にこれらの指標を確認(推測)するには、Google Scholarがお勧めです。検索窓に研究者の名前(ローマ字)とGoogle Scholarと入力すれば簡単に検索できます。ただし、以下のように2つ注意点があり、僕はこの指標は参考にしません。

1.Google Scholarへ公開許可を出している研究者でなければ表示されません。近年ではまともに研究活動を行っている研究者の多くは公開しています。
2.Google Scholarが収集する文献は、多岐にわたり、以下で紹介するScopusよりも高い値が出る傾向があります(要するにゴミジャーナルや低レベル学会の講演論文集なども収集対象) 。

Google Scholar表示画面の例

・Scopus(スコーパス)

もう少し高精度に指標を調査するには、Scopusがお勧めです。一部の情報は隠されてしまいますが、無料でも利用可能です(ただし、国内外の全てのトップ大学は、Scopusと契約しているので、学内のネットワークを用いれば、全情報にアクセス可能です)。また、今まで1つでも論文掲載されたことのある研究者は全員について掲載されており、Google Scholarと異なり、全研究者について閲覧可能です。収集対象となっている学術論文も一定水準以上のもののみ収集されています。また、QSを始めとする著名な大学ランキングは、Scopusに基づいていますので、Google Scholarより信頼性は高いと考えられます。

Scopusで研究者情報を閲覧するには、 Scopus研究者検索ページにアクセスし、Author last name(著者の姓)、Author first name(著者の名)、 Affiliation(所属機関)を英字で入力します。姓名の順序に気を付けてください。多くの場合、所属機関が空欄でも問題ありません。そして、Search/検索ボタンを押します。その後、検索条件に近い候補者が表示されますので、表示されている名前、所属機関、分野から調べたい研究者を特定し、名前をクリックすることで、当該研究者の情報を閲覧できます。まれに、論文に掲載されている名前の綴りが通常のローマ字表記ではない研究者もいるので注意してください。

Scopus表示画面の例

学術論文の優劣

Google ScholarやScopusを使って、論文数、被引用数、h-Indexを調べることはできます。さらに、各論文が掲載されている学術雑誌も同時に調べることが可能です。これらの学術雑誌の質は、Scopusでは一定水準以上であるものの、異なることが多く、学術雑誌Aに掲載されている論文数10本と学術雑誌Bに掲載されている論文数10本では、意味が大きく異なる場合もあります。

Scimago Journal & Country Rankでは、学術雑誌名からそのレベルを調査することが可能です。各学術雑誌において、様々なデータが表示されていますが、最も単純なのは、年ごとに表示されている四分位数(Q1~Q4)の指標でしょう(Q1が最もよくQ4が最も悪い)。各研究分野には、「優秀な研究成果ならこの学術雑誌にまず投稿する」という学術雑誌は必ずあり、そのような学術雑誌であれば、当該分野すべての小分野においてコンスタントにQ1の指標がついているはずです。僕の主観ですが、直近の期間でQ3やQ4が付いている学術雑誌は、インパクトはないでしょう。

基本的にQ1が多い学術雑誌ほどより優れた論文がより多く掲載される傾向にあります(逆に言うとより少ない意味のない論文)。各教員が論文投稿する学術雑誌数はそこまで多くはないはずですので、一つ一つ検索し、どのレベルの学術雑誌に投稿しているのか見てみると、より正確に当該教員の研究教育能力を推測することが可能です。

Scimago Journal & Country Rankによる良い学術雑誌の四分位数評価(Q1緑~Q4赤)の例

論文数、被引用数、hに基づく指導教員の見極め方

指標(論文数、被引用数、h-Index)を上記の方法で取得した後、きちんと吟味することが大切です。というのは、これらの指標は、研究者としての年数と分野に大きく依存するからです。従って、50歳の研究者による論文数30編と、30歳の研究者による30編は大きく意味が異なります。以下では、Scopus基準のこれら3つの指標に基づき、どのように評価するべきかの指針を示します。

論文数の吟味

Google ScholarやScopusを用いると、当該研究者の論文数を年ごとに表示することが可能です。ここで、優れた研究教育者というのは、(1)若手のころに筆頭での論文が多くあり、(2)指導者(共著者)として学生が筆頭著者である論文が多くあり、(3)共同研究者として所属組織外の国内外研究者との共著論文も多くあると考えられるでしょう。筆頭というのは、自分の名前が先頭にある論文のことです。以下にケース例を挙げます。

(1)いくら累積の論文数が多くても、当該研究者が若手(30代後半まで)の時の筆頭論文が無い又は非常に少ない場合、純粋な研究遂行能力が疑われます。特に国内大学の場合、1研究室を複数の教員で運営しているケースが多く、同研究室内における研究成果への大きな貢献がなくても共著者として自動的に名前が入る暗黙のルールに従う場合が多いため、このような事態が発生します(本行為は本来禁止されています)。研究者にとって、30代後半までは、博士課程学生、博士研究者(ポスドク)、助教(assistant professor)などと、第一線で自分の手を動かして研究成果を上げることを期待されています。この期間中に筆頭論文に代表される研究成果が出ないのであれば、常識的には大学教員にはなるべきではないのですが、学術界の慣例で、研究室内の博士学生をそのまま持ち上がりで教員とするケースが過去にはあったため、このような非常識な事態が未だに存在しています。

(2)が少ない場合、研究者としては優れているが、指導者としていまいちなケースが考えられます。研究大学であっても、教員は講義や事務処理などにも多くの時間を費やす必要があります(ただし大学内の研究所や研究センター所属の場合、講義などが免除されるケースも多い)。そのような環境下で研究成果を出し続けるには、学生に自分の知識や経験を伝え、ビジョンなどを理解してもらうコミュニケーションが必要となります。学生がある程度自立的に研究遂行できるようになり、その成果が論文として著名な学術雑誌へ掲載されるということは、当該研究者の指導者としての力量があるということではないでしょうか。ただし、上記(1)に該当しない場合、単に学生が優秀な可能性もありますので要注意です(国内外のトップ大学ではたまに起こりえる事象)。また、助教等、若手の教員はそもそも指導した学生数が少ないため、本項目による評価は不適切な場合があります。

(3)優れた研究成果を出し続けている場合、自然と国内外の研究者と共同で研究遂行したり、論文を書いたりする機会が増えてきます。逆に戦略的に論文数のみを稼ぐような活動をしている研究者は、論文数がそこそこあっても誰も寄り付いてこないでしょう。

僕の経験上、レベルの比較的高い研究大学における機械工学(Mechanical Engineering)分野では、最低でも博士課程在籍中に1本以上、ポスドクで5本、助教クラスで30本、准教授であれば50本程度の論文がないと、次のステップへ上がる資格(実力)はないかな、という印象です。もちろん論文数だけで職位の昇降は決まりませんし、同じレベルの職位でも、在籍する年数と共に論文数増えていくことに留意が必要です。また、同じ研究室での持ち上がりの慣習により、雀の涙ほどの論文数しかなくても昇進する教員も中には存在します。このような教員を見極めるのに、上記の指標とその吟味の方法は有効です。

引用数の吟味

論文数は大事ですが、論文数だけでは、研究の質は測れません。優れた論文は、通常他の研究において引用されることが多いので、当該の研究者の論文の被引用数に着目することで、研究のインパクトを推定することができます。SNSで例えると、論文数はポストの数、被引用数はLikeやShareの数といったところでしょうか。もちろん良く引用される論文の中には、悪い意味で議論を呼ぶから引用されるものもありますが、そのようなケースは多くはありません。

同じ被引用数でも、全被引用数を全論文数で割った、1論文当たりの平均被引用数は便利な指標です。これは、博士課程学生やポスドクなどの極めて若い研究者の場合は、優秀さに関わらず小さな値が出る傾向にあります。しかし、5年程度研究分野で従事していると思われる大学の助教クラス以上の職位ではだいたい論文当たりのインパクトを推定するのに適した指標となります。

レベルの比較的高い研究大学における機械工学分野の場合、この1論文当たりの平均被引用数は、5以上ないと恥ずかしいかな、という印象です。ただし、著名な研究者の中には、他の研究者との共同研究や指導学生による共著論文が非常に多くあり、高いインパクトの論文が多い一方で、そうではないより多くの論文により1論文当たりの平均被引用数が下がる場合も考えられますので、注意が必要です。

h-Indexの吟味

h-Indexとは、被引用数がh以上である論文がh以上あることを満たすような最大の数値hにより定義されます。この指標が提案された背景には、「100の引用を受ける論文を1編書く研究者」と、「1つしか引用を受けない論文を100編書く研究者」の研究の質を1つの指標で判別する、ということが挙げられます。同じアウトプットであれば、研究活動歴が長い研究者ほどh-Indexは大きくなる傾向にありますが、論文数と被引用数を程よいバランスで表現した単一の指標として有意義です。

レベルの比較的高い研究大学における機械工学分野では、ポスドクでh=5、助教クラスでh=10以上ないと、次のステップへ進めないという印象です。逆にこれを大きく下回るh-Indexを有する准教授や教授を見ると、大丈夫かな、と心配になります。

さいごに

いくつか具体的な数字を出しながら、説明しましたが、これらの数字はあくまで機械工学分野における僕の経験に基づく水準です。分野によって、これ以上ないとダメな領域や、そうでない領域があるかと思いますので、同じ学部の複数の教員の指標と比べるなどして、比較するのが良いと思います。

また、近年、若手研究者の評価は上記の指標などを用いてかなりシビアに実施されます。Scopus等のデータは、PythonやExcel VBA等を用いるスクレイピングにより、簡単に自動収集することが可能ですので、ご自身が所属する(予定)の学部の研究者はどのレベルなのか、自分はどのレベルを最低限期待されているのか、などの判断材料に使うことも容易です。

スクレイピングにより自動収集した僕の所属学部の全教員のScopusスコアのエクセルシート例

ここで紹介した指標が着目されているのはここ10年~20年ですが、賛否両論あり、遠い将来も同じ指標で研究者が評価されているかは分かりません。ここで紹介した指標は、最も手軽に収集でき、最も広く用いられているので、知っていて損はないと思います。


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