ストローハル数の数値実験


流体機器設計や条件策定などに有用な、ストローハル数に関する数値実験例を紹介します。Flowsquare+(2020R1.0)用い、入力ファイル付きで紹介します。シミュレーション条件は、公式サイトにて公開されている「水中のカルマン渦数値実験」のシミュレーション例に基づきます。夏休みの自由研究や学生実験等のネタにどうぞ。

ストローハル数とその有効性

ストローハル数(Strouhal number)とは、周期的な流体現象の周波数、主流速度及び代表長さを関係づける無次元数です。ストローハル数Stは、

(1)   \begin{equation*}St=\frac{f D}{U}\end{equation*}

で定義され、ここで、f (1/s)は周期的な流体現象の周波数、D (m)は流体現象の代表長さスケール、U (m/s)は流体現象の代表速度スケールです。

通常、カルマン渦の現象において、通常これらの代表スケールとして、D=円柱の直径、U=主流速度を用い、その時のストローハル数は、レイノルズ数Re500500,000程度の範囲で、St=0.2程度になることが経験上分かっています。ここで、レイノルズ数Reの定義は、

(2)   \begin{equation*}Re=\frac{UD}{\nu}\end{equation*}

であり、\nu (m^2/s)は動粘性係数です。

ストローハル数の便利な点は、カルマン渦のような周期的な流体現象において、主流速度と代表長さスケールが分かっている場合に、現象の周波数を予測することができることです。これを応用し、流体条件を適切に制御し、周期的な流体運動の周波数が、流体機器の固有振動数と一致しないような機器運用設計が比較的簡単に実現できます。

ちなみに周期的な流体運動の周波数と、工業製品の固有振動数が一致してしまったために事故につながってしまった過去の事例として、 タコマローズ橋の落橋が有名です。

また、周期的な流体運動の周波数から、流体機器に作用する繰り返し応力の回数を予測することも可能で、これにより定期点検や交換修理の頻度を見積もることも可能となります。もんじゅのナトリウム漏洩火災事故では、周期的流体運動に起因する繰り返し応力による機器の破壊が原因といわれています。

もちろん、対象となる工業製品が複雑になれば、Stのみで流体運動の周波数を正確に予測することは次第に困難になりますが、身の回りの流体機器の要素部品は、比較的単純な形状を有しているものが多いため、ストローハル数の理解は流体機器設計において非常に重要です。

そこで、Flowsquare+公式サイトにて公開されている「水中のカルマン渦数値実験」のシミュレーション例を用い、様々な主流速度と円柱直径の条件下におけるカルマン渦のシミュレーションを実施します。シミュレーション結果から、直接周期流体運動の周波数を取得し、式(1)を用いてストローハル数を計算し、本当にStがどの条件においても0.2程度であるか、検証します。

シミュレーション条件

以下のテーブルに今回考慮した4条件をまとめます。今回は水の流体シミュレーションであり、粘性係数\mu1.0\times10^{-3} (Pa\cdots)、密度\rhoは1000 (kg/m^3)であるため、動粘性係数\nuは、1.0\times10^{-6} (m^2/s)となります。今回は、2つの主流速度と3つの円柱直径から成るケースを考慮し、円柱直径に基づくレイノルズ数Reは、10,000~600,000です。また、全てのケースにおいて、「水中のカルマン渦数値実験」のシミュレーション例で示されている下流領域に、点計測を行うためのプローブを設置しました。

カルマン渦のシミュレーション条件
ケース名D06U10D06U01D03U01D01U01
U (m/s)10111
D (m)0.060.060.030.01
Re600,00060,00030,00010,000
入力ファイルparam.txt
bcXY0.bmp
一括
param.txt
bcXY0.bmp
一括
param.txt
bcXY0.bmp
一括
param.txt
bcXY0.bmp
一括

シミュレーション結果

典型的なカルマン渦のシミュレーション結果の動画などは、 「水中のカルマン渦数値実験」のシミュレーション例 にて紹介されています。

以下の図は、プローブにおいて計測されたy方向速度成分(上下方向速度成分)であるv (m/s)の時間変化を全てのケースにおいて示しています。

4ケースのy方向速度成分v (m/s)時間変化(クリックで拡大します)。

全てのケースにおいて、初期場の影響が小さくなる、シミュレーション開始から少し時間が経過した時刻以降において、周期的な時間分布(波)が見られます。ただし、レイノルズ数Reが大きく異なるため、速度変動の幅や、その周期はケース間で大きく異なります。

この結果(上図)から、1周期(波1つ)当たりの時間を図り、その逆数をとることで、周波数f (1/s)を得ることができます。シミュレーション結果から直接取得したfと、シミュレーション条件であるU, Dを用いることで、式(1)からストローハル数Stを以下の通り得ることができます。

カルマン渦のストローハル数
ケース名D06U10D06U01D03U01D01U01
f (1/s)0.3033.016.1718.2
St0.180.180.190.18

まとめ

上記のように、幅広い条件下において、円柱周りのカルマン渦のストローハル数は0.18~0.19であることが確認できました。つまり円柱周りのカルマン渦の渦発生周波数は、今回考慮したレイノルズ数Reの範囲において、

(3)   \begin{equation*}f\approx 0.2\frac{U}{D}\end{equation*}

(式(1)の式変形)と見積もることができることが、シミュレーション結果を用いて確認できました。また、この例を通じて、流体力学における無次元数による整理方法について少し理解が深まったかと思います。熱流体力学では、他にも様々な無次元数が存在します。

補足

1.解像度は十分でしょうか?特に、今回紹介した最もレイノルズ数が大きなケースでは、解像度によってシミュレーション結果が変化する可能性が考えられます。格子点数(nx, ny, nz)を変化させ、シミュレーション結果の解像度への依存性を確認することができます。

2.より大きなレイノルズ数やより小さなレイノルズ数での傾向はどう変わるかの検証も可能です。またその際の乱流モデル(パラメータ、Cs)の影響も見積もるとよいでしょう。


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